糖尿病
糖尿病について
糖尿病は、血液中の血糖値が慢性的に高い状態が続く病気です。主に「1型糖尿病」と「2型糖尿病」の2つに分類されますが、日本人では生活習慣病の一つである2型糖尿病が圧倒的に多くみられます。
2型糖尿病は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが不足することによって起こります。その原因には、過食、運動不足、肥満、ストレスなどの生活習慣が深く関係していると考えられています。インスリンの分泌量が足りなかったり、うまく作用しなかったりすることで、血糖値が高い状態が続きます。

2型糖尿病は、初期にはほとんど自覚症状がありません。そのため、健康診断などで「糖尿病の疑いがある」や「HbA1cが高値」などと指摘された場合は、放置せずに必ず医療機関を受診しましょう。早期に対処することで、病気の進行や合併症を防ぐことができます。
糖尿病の主な症状
次のような症状がある方、自覚症状はなくても、健康診断で高血糖や尿糖を指摘された方は、ぜひ早めに 医療機関を受診しましょう。糖尿病は初期の段階では自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行してしまうことがあります。早期発見・早期治療が健康維持の鍵となります。
次のような症状や心配ごとがある方、ご相談ください。
●のどが渇き、水分をたくさん飲むようになった
●尿の回数や量が増えた
●最近、疲れやすくなった
●体重が減ってきた
●血糖値が高めと言われたことがある
●健康診断でHbA1cが高いと指摘された
●家族や親族に糖尿病の人がいて、自分も不安を感じている
糖尿病の診断基準
1度の検査で(1)〜(3)のうちの1つと(4)が同時に確認された場合、糖尿病と診断されます。
(1)早朝空腹時の血糖値が126mg/dL以上
(2)75グラム経口ブドウ糖負荷試験で2時間後の血糖値が200mg/dL以上
(3)時間に関係なく測定した血糖値(随時血糖値)が200mg/dL以上
(4)HbA1cの値が6.5%以上
血糖値は、食事の内容や時間帯、運動の有無などによって大きく変動します。そのため、一度の測定だけでは血糖の状態を正確に把握することは難しい場合があります。
そこで、血糖状態をより安定的に評価するための指標として、現在広く使われているのがHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)です。HbA1cは、過去1〜2か月間の平均的な血糖値を反映する数値であり、糖尿病の血糖コントロールの状態を確認したり、合併症を予防するための管理に非常に有効とされています。
糖尿病の合併症
血管がダメージを受けることで様々な合併症が起こる
血液中の糖の濃度(血糖値)が何年間も高いままでいると、血管が傷ついたり、 詰まったりして、血流が滞ってしまいます。このように、高血糖が原因で血管とそれにつながる臓器が障害されると、糖尿病に関連するさまざまな合併症が生じます。
糖尿病の慢性合併症は、数年から数十年の経過でゆっくり生じてきます。かなり進行するまで症状が出ないこともあり、気が付かないうちに合併症が進むと、失明や腎不全、足の切断などなることもあります。
どのような慢性合併症があるのか知っておくこと、そして担当医と相談しながら定期的に合併症に関する検査を受けることが大切です。
糖尿病の三大合併症(細小血管障害)
●糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、初期のうちは自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行するのが特徴です。高血糖の影響で網膜の毛細血管が傷つき、出血や視力の低下を引き起こし、重症化すると失明に至ることもあります。
日本では、糖尿病網膜症は失明原因の第2位とされています。
糖尿病と診断されたら、自覚症状がなくても定期的に眼底検査を受けること、そして血糖コントロールを継続的に行うことがとても大切です。
●糖尿病腎症
腎臓には、血液をろ過する糸球体(しきゅうたい)という毛細血管の集まりがあります。高血糖状態が続くと、この糸球体が傷つき、次第に腎臓の機能が低下します。進行すると尿にたんぱく質が出るようになり(たんぱく尿)、さらに悪化すると腎不全となって人工透析が必要になることもあります。
日本では、人工透析が必要になる原因の中で糖尿病腎症が最も多く、年々増加しています。
そのため、血糖コントロールを継続的に行い、定期的に尿検査を受けることが予防の鍵です 。
●糖尿病神経障害
糖尿病は、血管だけでなく末梢神経にもダメージを与えます。
主な症状として、手足のしびれ、感覚の鈍化(痛みや熱さに気づきにくくなる)、などがあげられます。
症状が進むと、けがや火傷に気づかずに悪化し、特に足では壊疽(えそ)を起こして切断を余儀なくされることもあります。しびれや違和感を感じたら、早めに医師へ相談し、適切な治療を受けることが大切です。
糖尿病の大血管症
高血糖が引き起こす動脈硬化によって、心臓、脳、足などの太い血管に障害が起きる状態を指します。具体的には、心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患(足の血流が悪くなる病気)などがあります。血糖値が高い状態が続くと、動脈硬化が進んでこれらの病気が起こりやすくなります。
●虚血性心疾患
心臓に栄養や酸素を運ぶ冠動脈が硬化して狭くなると、血液が流れにくくなり、狭心症が起こります。また、血液が流れないことで心臓の筋肉がダメージを受け、心筋梗塞を起こすこともあります。
●脳梗塞
脳に栄養を運ぶ血管が詰まると脳梗塞を起こします。
●末梢動脈疾患
末梢血管が硬化して狭くなると、血流が悪くなり、酸素や栄養が足の先まで運ばれなくなることがあります。主に足に症状が現れ、が冷たく感じたり、しびれたり、また、ある程度の距離を歩くと痛みが出たりします。進行するとじっとしていても痛みが出るようになり、足の細胞が死んでしまい(壊疽)、切断が必要になることもあります。
糖尿病の進行と合併症の発生頻度
糖尿病の程度と、これらの合併症が起こる率には関係があることがわかっています。
細小血管症はヘモグロビンA1cが8%を超えると、急に発症率が高くなっています。この事実は、他の多くの調査からも明らかにされています。
では、心筋梗塞の発生率とヘモグロビンA1cの関係はどうでしょうか。確かにヘモグロビンA1cの値が高いほど、発生率が高いのですが、目に付くのは、ヘモグロビンA1cが6.5%~7.0%という比較的低い値でも心筋梗塞の発生率が高いということです。ですから、動脈硬化は糖尿病が軽い段階でも進んでいることがわかります。また、この範囲のヘモグロビンA1cの値の患者さんは、空腹時血糖よりも食後の血糖が高いこともわかっています。
糖尿病の治療
1型糖尿病
1型糖尿病では、体の中でインスリンがほとんど分泌されない、または極端に不足している状態になります。
そのため、治療の中心はインスリン注射によって不足分を補うことです。インスリンを適切に補うことで、血糖値を正常に保ち、合併症の発症を防ぐことができます。
2型糖尿病
2型糖尿病では、合併症の発症や進行を防ぐための血糖コントロールが治療の基本となります。
そのために重要なのが、食事療法、運動療法、薬物療法の三つの柱です。この3つを組み合わせて継続的に行うことで、血糖値の安定を目指し、健康な生活を維持することができます。
食事療法
糖尿病の治療において、食事療法は最も基本であり重要な柱です。食事内容を見直すことで、血糖値を安定させ、合併症の予防にもつながります。
食事では、炭水化物、たんぱく質、脂質をバランスよく摂ることや、ビタミンやミネラルも欠かさず摂取し、体の調子を整えることが必要です。
具体的な食事管理には、日本糖尿病学会が作成した「糖尿病食事療法のための食品交換表」を活用します。とくに2型糖尿病の場合、適切な食事療法を継続すれば、薬に頼らず血糖コントロールが改善する可能性もあります。
当クリニックでは、管理栄養士による栄養相談を行っています。外食やお酒の機会が多い方でも無理なく続けられる食事の工夫や、忙しい中でも実践できるアドバイスをご提案します。
運動療法
運動で体内に余分に溜まったエネルギーを消費することで血糖値が下がります。また、インスリン感受性が高まり、血糖コントロールがしやすくなります。
おすすめの運動は、ウォーキング・自転車・スイミング・ジョギングなどの有酸素運動です。1回あたり20~40分程度を目安に、週3回以上行うことが推奨されています。
また、「週末にまとめて運動する」よりも、できるだけ毎日、無理のない範囲で続けることが大切です。日常生活の中でも、エスカレーターの代わりに階段を使うなど、小さな工夫を積み重ねることが血糖改善につながります。
薬物療法
食事療法と運動療法を2~3か月ほど継続しても血糖コントロールが十分でない場合は、次の段階として薬物療法が検討されます。糖尿病のお薬には、内服薬と注射薬の2種類があります。
患者様の血糖管理状態や生活スタイル、年齢、QOL、副作用などを考慮しながらお薬を決定します。
近年、糖尿病治療薬は大きく進化しています。
週1回の投与で済む薬、血糖値だけでなく心臓や腎臓も守る薬、食欲抑制や体重減少効果もある薬、低血糖リスクが少ない薬、など患者さんが"自分らしく生きる"ための選択肢が広がっています。
